研究概要 |
近年、セラミックスあるいは金属酸化物により構成されたナノスケールの中空ファイバが、複合強化材、触媒用材料、触媒担持体、ガスセンサ材料、発光体用材料、追記型光記録用フォトクロミック材料、フラットパネルディスプレイ用電極、あるいは半導体材料として、幅広い分野での応用に期待が高まっている。これらの金属酸化物の多くは絶縁体であるが、金属酸化物の中にはMoO2、RuO2、あるいはIrO2のように導電性を示すものがあり、こうした導電性酸化物は触媒,諸センサー,記録材料として、より大きな潜在的可能性を持っている。 本研究では金属Mo基板を裏面から酸素-アセチレン燃焼炎で加熱することにより,その表面に中空MoO2形成することに初めて成功した。とくにその断面形状が四角形(矩形)である点が極めて特徴的である。一昨年度は、この矩形断面を有する金属酸化物の中空ファイバ(ナノチューブ)の構造物性評価を(a)X線光電子分光法(XPS)、(b)X線回折法(XRD)、(c)走査電子顕微鏡(SEM)、を用いて行い、当該ナノチューブが単斜晶系の二酸化モリブデンMoO2を基本構造に持つことを明らかにした。SEM観察の結果、中空ファイバは一辺が数10nmから10μmの矩形断面を有しており、チューブ長さは断面一辺の長さの約50倍であると分かった。また昨年度は本学、百万ボルト電子顕微鏡室に設置のJEOL社製JEM-3000F等を用いて高分解能透過電子顕微鏡観察を行い、構造解析シミュレーションを併用することにより、当該ナノチューブが単斜晶系のルチル型二酸化モリブデンMoO2構造を取ることを原子像レベルで改めて確認した。また高角度散乱暗視野走査(HAADF)を用いて組成分析を行い、当該ナノチューブ形成において、点欠陥が主要な役割を果たすものではないことを見出した。 本年度は成長初期過程を詳細に調べ、当該ナノチューブが成長するためには、用いる燃焼炎の酸素/アセチレン混合比を一定の範囲内に収める必要があることを見出した。またMoO3ロッドがCOガス等の還元性ガスによってMoO2になるとする成長モデルを提案した。
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