初年度の後半で明らかになった事実として、ピリジル系の有機顔料が存在しなくとも、オートクレーブ(圧力反応器)内の反応でペンタンジオールと硝酸のみで黒色顔料が得られることが分かった。これは大変ショックな結果であり、単にペンタンジオールと硝酸をオートクレーブ内で加熱すると、150℃あたりから圧力が1.5MP程度にあがり、この後に黒色固体が生成するものである。しかし、面白いことに開放系では褐色の液状物質しか得られていない。本年度は各種の酸、各種有機溶剤を使って反応の一般化と黒色物生成の反応メカニズムを解明することに専念した。しかし、黒色固体は完全に不溶のためNMRの測定も行えず、質量分析においても試料にイオン衝撃を与えるだけで完全に小さなフラグメントになり、意味ある組成分析は行えなかった。現時点で明らかになっているのはCHNの分析結果と熱分析だけである。このように反応のメカニズムや生成物の詳細は不明であるが、本黒色顔料はあらゆる有機溶剤に不溶で、耐熱性、耐光性に優れていることが明らかになった。そこで、本研究では工学的な点に主眼を移し、電子写真の黒色トナーの帯電補助材として可能性を検討した。電子画像の分野では高解像度の要望が強く、それに応じて可視像化のために使われるトナーは7ミクロン程度の小粒子が要求される。このような小粒子になるとカーボンブラックを主成分とするトナーでは伝導性が高くなり、電子写真で必要な十分な摩擦帯電がえられない。これを補助するのが本黒色顔料である。その結果、他の顔料では得られない際立った帯電補助効果が認められた。これらの、研究成果を踏まえて、製法ならびに応用面についての広範な特許を申請した。また、実装テストとして国内の大手画像メーカー2社にサンプルを提供し、現在のところ良好な結果が得られている。黒色顔料以外の成果として、当初検討したピリジル系の有機顔料は水素ガスセンサー材料として有望であることが分かり、センサー特性ならび構造解析についても広範囲な検討を行った。
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