従来の吸蔵合金への侵入反応とは異なる、可逆水素分解反応が注目を集めている。この反応機構による水素吸蔵はNaAlH_4に特有のものという認識が定着しつつあったが、2002年の我々の研究によりKAlH_4なる化合物が無触媒でも良好な可逆的水素分解反応を示し、吸蔵量も4wt%という大きな値に達することが明らかになり、ほぼ同時に、Li_3Nが類似の無触媒可逆水素分解反応を示すことが報告された。これが一般的な現象であると考え、本年度はチタンの触媒効果に着目し、Li-Ti-N系に関して正確な相関係を把握すべく検討を進めた。 その結果、3d遷移金属が固溶した新規な層状リチウム遷移金属窒化物が存在することを見出した。Li_3N-TiN2元系においてこれまではTiを多量に含む定比のLi_5TiN_3逆蛍石構造が唯一の安定相とされてきた。しかし、実はTi量が少ない領域においては、Li_8N正6角形からなる層とリチウムのみからなる層が交互に重なった、元来のLi_3Nの層状構造を保つ固溶領域が安定に存在すると同時に、Tiが層間に周期性をもって選択的に占有する超格子配列で帰属可能なX線回折ピークの存在を明らかにした。このように、3d遷移金属が固溶した新規な層状リチウム遷移金属窒化物が存在する可能性を見出した。 周期律表でFeより左が逆蛍石構造、Coより右が層状構造という分類がなされている。しかし、本研究によって、この一般則が遷移金属量の小さい領域では成り立たないばかりか、超格子配列という特異な現象が現れる兆候が捉えられつつある。他の遷移金属においても同様の現象が類推されることから、新奇なリチウム遷移金属窒化物が見出される可能性が高いと考える。これについては来年度以降、水素吸蔵能評価とともに検討を進める。さらに、これまでに検討例のない1万気圧以上の圧力を、相図を規定するパラメータに加えることで、新奇材料のヴァリエーションを増やしていく。
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