本研究の目的は、環境適合性あるいは生体適合性高分子材料として応用が期待される生分解性脂肪族ポリエステルに使用するための植物由来の安全な生分解性結晶核剤を開発することである。 昨年度に引き続き本年度も脂肪族ポリエステルの結晶核剤として有望な植物由来有機材料を探索した。脂肪族ポリエステルの官能基、すなわちエステル基と相互作用、特に水素結合、を形成すると期待される種々の植物由来材料について、結晶核剤としての性能を評価した。 脂肪族ポリエステルとして昨年度と同様に典型的な生分解性プラスチックであるポリ(ブチレンサクシネート)、ボリ(3-ヒドロキシ酪酸)及びポリ(ε-カプロラクトン)を取り上げたほか、新たに微生物産生ボリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシヘキサン酸)を取り上げた。植物由来の核剤として、昨年度と同様のでんぷん由来の環状オリゴ糖α-シクロデキストリンを取り上げたほか、新たにメチル化シクロデキストリン、アラビトール、イノシトールなどの単糖やオリゴ糖を取り上げた。ポリエステルと核剤より成る混合物について、示差走査熱量計、偏光顕微鏡などを用いて、熔融状態から冷却する過程でのポリエステルの非等温結晶化挙動、熔融状態から所定の温度まで急冷し、所定の温度にて維持するときの等温結晶化挙動、さらには溶融状態からガラス転移温度以下の温度まで急冷後、昇温する過程で起こる低温結晶化挙動を追跡した。示差走査熱量計分析データを、Avrami式などの高分子結晶化に関する速度論的モデルに基づいて解析し、結晶化速度定数、結晶核密度等を算出した。これらの結果から、シクロデキストリン、ガラクチトール、などの糖類はポリエステルの核剤として有望であることを明らかにした。
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