研究概要 |
無機基板結晶上でエピタキシャル成長させた有機半導体薄膜結晶粒間に存在すると考えられている位相欠陥を可視化するために,蛍光ラベル化試薬ローダミンを銅フタロシアニンと反応させた.しかしながら,反応による生成物と未反応の反応物の分離が困難であり,未だ位相欠陥の可視化実験に必要と考えられる数mgオーダーの生成物が得られていない.そこで,結晶粒の良質化メカニズムを明らかにする目的で,アニーリングによるオストワルド成長過程の観察実験と,低速電子顕微鏡(LEEM)による薄膜結晶粒成長過程のその場観察実験を並行して進めた. 1)アニーリングによるオストワルド成長過程の観察実験:銅フタロシアニンの薄膜結晶をグラファイト基板上に分子線エピタキシャル成長させた後,真空チャンバー内で薄膜結晶を150℃と200℃で所定時間アニーリングした.得られた薄膜結晶の粒径分布と高さを原子間力顕微鏡で観察した結果,アニーリングにより結晶粒のオストワルド成長が表面拡散を介して進行していることが強く示唆された.さらに,アスペクト比の小さな層状の結晶粒を得るには,より低温でのアニーリングが有効であることを見いだした. 2)低速電子顕微鏡(LEEM)によるその場観察実験:水素終端(H-)Si(111)基板上でのペンタセン(Pn)の樹枝状薄膜結晶の成長過程をLEEMでその場観察した.まず,低速電子線回折(LEED)像より,PnがH-Si(111)表面上では6方位でエピタキシャル成長することを見出し,その構造を決定した.また,LEED像よりこれまで単結晶であると考えられてきた樹枝状結晶が実は多結晶であること,およびLEEM像より1つの樹枝状結晶はPn分子の配向角度が異なる3つのドメイン構造を有することを見出した.さらに,樹枝状結晶が枝分かれする際のドメイン構造の継承機構を明らかにした.
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