研究概要 |
GaAs結晶中の点欠陥EL2は、適当な波長の光を照射すると安定状態から電子・光学的特性が著しく異なる準安定状態へと構造変化を起こす。普通この準安定状態は低温でないと凍結できないが、準安定状態の凍結可能温度が室温まで広がれば、様々な応用が考えられる。このようなEL2の双安定性発現温度域は引っ張り応力により拡大することが分かっているが、歪み薄膜成長や転位により導入した内部応力場を利用することで高温でも光双安定性を実現できる可能性がある。これを定量的に調べるためには、結晶中に不均一に存在する内部応力場を測定しながら、同一場所でEL2の双安定挙動を観察することが必要である。今年度は、低温成長GaAs(LT-GaAs)エピタキシャル膜と塑性変形したGaAs単結晶を用いて、応力下での光双安定性を系統的に調べることができるようになった。 (1)GaAs結晶のTO,LOフォノン波数を測定することにより局所的な弾性歪みを80μΦの空間分解能で評価するため、532nmのレーザー光を励起光に用いたラマン散乱測定システムを構築した。 (2)ラマン測定するのと完全に同一場所で、同じ532nmのレーザー光を励起源とするフォトルミネッセンス(PL)を測定できるシステムを構築した。上記光誘起構造変化をEL2由来PL強度の赤外光照射に伴う減少によって検知するためには、ポリクロメータと電子冷却InGaAsフォトダイオードアレイでは感度不足となるため、回折格子分光器と窒素冷却InGaAsのフォトダイオード検出器によるロックイン検波方式とした。 (3)試料を20K〜室温の間の任意の温度に保ちつつ、圧電素子によって試料に弾性歪みを加えることのできる装置を作成した。 (4)LT-GaAs中のEL2由来のPL強度改善に高温アニールが有効であることを確認した。
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