研究概要 |
本研究の目的は,現在の線形計算アルゴリズムの主流であるクリロフ部分空間法(共役勾配法等)に,収束が遅いため,昨今顧みられることのなかった定常反復法(SOR法等)を組み込んで,より高速な線形計算アルゴリズムを開発することである.本年度は,線形計算アルゴリズムのうち,連立1次方程式の数値解法に的を絞って,研究を進めた. 具体的には,クリロフ部分空間法(ペトロフ・ガレルキン方式に基づく解法系(Bi-CG法,CGS法,Bi-CGstab法,Bi-CGstab2法,GPBi-CG法,GPBi-CG(ω)法),最小残差方式に基づく解法系(GMRES(k)法,GCR(k)法,orthomin(k)法))に前処理(不完全LU分解を用いた前処理,SOR法を用いた可変的前処理,反復回数一定のSOR法を用いた前処理,マルチグリッド法を用いた前処理)を組み入れ,クリロフ部分空間法と定常反復法の相性のよい組を探した.適用した問題は,Helmholtz方程式の境界値問題,van der Vorstの境界値問題,Joubertの境界値問題,領域分割法に現れる問題(この問題はマルチグリッド法に向いていないので,マルチグリッド法を用いた前処理は適用しなかった)である.その結果,つぎのようなことが判明した: 1.最小残差方式に基づく解法系については,、反復回数一定のSOR法を用いた前処理が有効である. 2.ペトロフ・ガレルキン方式に基づく解法系については,不完全LU分解を用いた前処理,反復回数一定のSOR法を用いた前処理,マルチグリッド法を用いた前処理のうち,どれが有効であるかは問題による.ただし,実装の簡単さ,およびその頑健性からすると,反復回数一定のSOR法を用いた前処理が最も有効であると考えられる.
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