研究概要 |
生体活性材料とは,体液や擬似体液中で,その表面に骨類似アパタイトが自然析出する材料のことを呼んでいる.骨類似アパタイトは,ヒトの骨の主成分に似た組成と構造を持ち,骨と自然に結合・同化することから,優れた骨伝導性を持つ材料として実用化されている.しかしながらこれらは,基本的にはセラミックスや金属であるため,ヒトの骨よりも弾性率が高く,骨吸収を招くことが問題となっている. 本研究ではポリシラザンに注目し,新しい生体活性材料の創製を試みた.材料が生体活性能を有するということは,(i)アパタイト誘起官能基を表面に有すること,(ii)体液中のCaイオンを過飽和にする機能を持つことなどが条件として挙げられる.ポリシラザンを低温で転化させることにより得られたSiO_2は,アパタイト誘起官能基であるSi-OHを含んだ物質となる.これに体液中のCaイオンを過飽和にする機能を付与することができれば,さらなる生体活性能の発現が期待できる. 本研究ではまず,Caイオンを過飽和にする方法としてステアロイル乳酸カルシウムをポリシラザン溶液に添加した混合溶液でSiO_2膜を作製し,擬似体液における浸漬試験を行った.しかしながら,この膜はCa含有量が少なく,また擬似体液中で損失してしまうため生体活性能を得ることができなかった. そこで次にポリシラザンとポリメチルメタクリレートを複合化した複合材料を作製し,擬似体液における浸漬試験を行ったところ,その表面に骨類似アパタイトあるいは非晶質リン酸カルシウムを析出することが明らかとなった.この複合材料は,擬似体液に浸漬させるとポリシラザンが擬似体液中のH_2Oと化学反応を起こしてNH_3を発生し,この発生したNH_3がpHを上昇させ擬似体液中のCaイオンが過飽和となり生体活性能が得られていることがわかった.このようなメカニズムで生体活性能を付与しようとする試みは従来行われておらず,またその析出速度は従来の生体活性材料に匹敵するものであった.さらに,ポリシラザンの含有量を変化させることで,生体活性能および機械特性をコントロールできることが明らかとなった.
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