研究課題
人間の腕は冗長自由度系である。手指も冗長関節系である。目標作業(到達運動、書字)を課すと、冗長関節運動は逆運動学的に一意に定まらず、これをN.Bernsteinは"Degrees-of-Freedom"問題、あるいは、不良設定問題と呼んだ。これを解決するために、従来、生理学とロボティクスでは人為的な評価関数(可操作性、トルク変化、ジャーク等)を導入し、その最小化によって逆運動学あるいは関節軌道を一意的に決め、運動生成を行うことが提案された。しかし、人間の脳が評価関数を計算している証拠は無く、幼いときに繰返し、反復して得た習熟によってスムースな運動生成能力を獲得したはずである。本研究では、冗長自由度系に必然に見える作業空間から関節空間への逆変換の不良設定性が、作業座標系からの感覚フィードバックによって、動的には自然に解消できることを具体的に解明していく。本年度では、水平面内の到達運動(リーチング)について、各関節に与えるダンピングを協同させつつ、作業座標フィードバックが筋肉収縮の単純化したモデルとして働くことを理論的に見出し、シミュレーションと実験によって確認することに成功した。また、この単純な形式をもつ関節制御信号は、目標位置から手先を引張る仮想スプリングが生成するポテンシャル力から来ることを示し、従来のEP(Equilibrium-Point)仮説に代えて、"仮想スプリング"(Virtual Spring)仮説が、冗長自由度系の不良設定性を自然に解消することを示した。また、3次元到達運動についても、重力補償を適切に行う方法を見出し、不良設定性が自然に解消できることを実証しつつある。なお、この応用例として冗長自由度をもつ書字ロボットを作成し、実験結果をまとめている。次年度には、重力下で、かつ手先拘束がある場合について、不良設定問題が自然解消できるか、挑戦する。
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IEICE Trans.on Fundamentals of Electronics, Communications, and Computer Sciences E88-A・10
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