本研究は、都市空間の骨格を構成する街路空間を対象に、町並みの秩序を形成する上で必要な知見を人間の視知覚構造の解明により導こうとするものである。本年度は街路景観の質の向上を考えた場合重要と思われる建物付属の広告物の景観的影響をそのほかの街路景観構成要素との関係性を踏まえて定量的に評価した。広告物の視覚的影響の程度については、その他の景観構成要素の視覚的影響力との相対的比較によって得られると考えられる。既存研究においては街路景観を構成する要素が概ねではあるがある時間的序列をもって人間の認知に取り込まれていることが知られている。看板・広告物もそのような視覚認知過程において位置づけられるが、大きさや視野内の位置など様々な属性を有する多数の看板・広告物については、より早い時間に認知されることがより大きな視覚的インパクトを有するとの仮定がある。そこで瞬間画像提示装置を用いて様々な街路映像から看板・広告物を含む街路景観要素の認知時間を観測し比較評価を行った。分析のポイントは(1)街路景観全体の認知形成過程の観測、(2)看板・広告物の認知時間や出現パターンの観察とその他の要素との比較、(3)出現速度と看板・広告物の形態指標の相関分析、である。要素の認知時間については被験者数を考慮した出現速度指数を定義した。(1)の分析からは、並木や街灯のような街路景観の枠組みを規定する要素の内、鉛直方向に卓越した形状を有するものがより早く出現すること、(2)の分析からは看板・広告物の出現パターンには共通性が見られず、形態要因の影響が強いと考えられること、(3)からは出現速度指数との相関が得られた広告物の面積と最大縦幅が視覚的インパクトを高める要因と予想されること、等の知見が得られた。
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