研究課題
昨年度の研究結果をベースとし、原子容器として機能する可能性をもつ近似結晶Zn17Sc3について、金属学的・結晶学的な実験研究を行った。この近似結晶の室温における構造は、体心立方的な原子のネットワークとその中に埋め込まれたクラスターとして理解できる。従来のX線構造解析においては、クラスターは、密にパッキングした3重のシェルから構成されており、その中心部は、原子4個分程度の体積をもつ空洞とされていた。金属において、このような空洞は極めて不自然であり、4個の原子が含まれているとする考えも提案されてきたが、3重シェルの満たす正20面体対称性と内部原子との構造的整合が維持できなくなる。この穴の特性を理解し、原子容器としての可能性を検討した。本年度おいては、150K付近で生じる低温相転移に着目して、実験を行い以下の成果を得た。1.電気抵抗の温度依存性の測定から、相転移は合金組成、熱処理などの条件に敏感であることが明らかとなった。Zn85Sc15の組成においては、鮮明な相転移は観測されなかったが、Zn85.5Sc14.では、除冷試料において鮮明な相転移を生じた。2.電気抵抗測定で鮮明な相転移を生じた試料について、低温(94K)電子顕微鏡観察を行った。その結果、低温相は、高温相のほぼ2倍の体積の単位胞をもつ単斜晶で、空間群がCcまたはC2/cであることが判った。この結果は、低温相の単位胞には、クラスターが4個含まれていること、また、それらは、c-glideおよびC面心により関連付けられていること、従って内部構造も含めてクラスターは、一種類であることが判明した。2.低温(92K)粉末X線回折実験を、SPring-8のBL02B2において行った。Rietveld法による構造解析の結果、クラスター内部に歪んだ4面体が含まれていること、それに伴い、第一シェルも正12面体から大きく歪んでいることをみいだした。この結果は、低温相転移がクラスター内部にふくまれる原子配置の方位規則化であることを初めて直接的に示したものである。この実験結果は、高温相の状態が、乱れたクラスター内部構造、従って選択的な構造異常性を示している。
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