本年度は反射配置によるX線共鳴散乱実験の基盤技術として不可欠な高S/N(低バックグラウンド)斜入射小角散乱測定の実現に注力した。磁気共鳴散乱においては円偏光差分として1%程度の散乱因子変化分を検出する必要があるため、通常の鏡面反射と比較して3桁程度低い散漫散乱である小角散乱では空気散乱などの寄生散乱成分のオフセットが致命的になると予想されるからである。そのため、入射X線フラックスが強いこと、線源の性質が良いこと(平行性、輝度)などを勘案し、SPRing8のアンジュレータビームラインを利用したGI-SAXS測定をおこなった。試料としては従来のGI-SAXSパターンとの定量比較を実現するために、標準試料として利用してきているガスソースMBE法によって成長したナノドットをSIキャップ層に埋め込んだものを利用した。これらを短時間熱処理(RTA)処理し、界面相互拡散層の見積もりを試みた。界面相互拡散層の見積もりには小角散乱強度のべき乗則領域を利用し、そめ定量評価に要求されるダイナイックレンジは共鳴磁気散乱によるものよりやや小さいというレベルであり、手法的にはこのレベルでの定量測定が共鳴散乱実現には最低限必要となる。 アンジュレータビームラインでの試行により、第二世代放射光光源と比べて約20%程度の露光時間で同程度の測定が実現されることが明らかとなった。また、このとき使用したナノドットに関しては、RTA処理による拡散により、格子定数程度からその倍という、ごく薄い相互拡散層が時間とともに増加している過程を明らかにすることができた。従来埋め込まれたナノドットは実用上は重要であるにもかかわらず、PL発光波長や効率に強く影響する界面拡散を定量化する手法が存在しなかった。今回の成果はその意味でも有用な知見となる。なお、この結果は2006年7月の小角散乱国際会議(SAS2006)で公表の予定である。
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