研究概要 |
電界効果型Siトランジスタのゲート直上に形成した酸化物強磁性体薄膜の残留磁化を利用して,Siトランジスタのキャリア移動度を向上することを見いだし,この原理を利用して磁性体薄膜の効果により,電界効果トランジスタの特性を向上することを検証し,全く新規な高速動作型トランジスタの原理的な可能性を検討した. 本年度は強磁性体薄膜をMOS FET上に再現性よく作成するプロセスの確立と,強磁性体薄膜の残留磁化がトランジスタ特性に与える影響を詳細に検討した.すなわち,高い残留磁化と高い保磁力をもつ強磁性体薄膜の探索,成膜条件の最適化,強磁性体薄膜の微細加工技術の検討を行った. [MOS FET上への強磁性体薄膜の成膜条件の最適化と構造解析] MOS FETテストチップ上に,マグネトロンスパッタ装置を用いて,SiO_2を絶縁膜として強磁性金属薄膜の成膜および、絶縁性の酸化物強磁性体薄膜の形成を試みた.本来は酸化物薄膜を用いる予定であるが,金属薄膜を用いた理由は,より残留磁化が大きな強磁性金属を用いて移動度向上の上限を知ることを目的としたためである.しかしながら,アルニコ磁石を検討したが,チャンバー内の残留酸素の影響と考えられる酸化のために,十分な磁性が得られなかった.一方,酸化物強磁性体としては,バリウムフェライトを検討した.MOS FETのゲート上に微細加工をすることから,室温で成膜して,加工した後に,結晶化するプロセスで最適条件を検討した.最適なスパッタ条件は,室温,RFパワー50W, Arスパッタ,チャンバー圧10mmTorrで2時間であった.成膜後,800℃,10分間結晶化処理をした.得られた薄膜の磁気特性は,Mr=390mT, Hc=4.4kOeで良好であった. [酸化物磁性薄膜の微細加工技術の開発] 用いたMOS FETは異なるゲート長,巾をもっており,形成した強磁性体薄膜を最適なサイズ,形状に微細加工する技術を検討した.実験は湿式エッチングとフォトリソグラフィー技術の一種のリフトオフ法を用いて作成し,良好なエッチング条件を得た. [酸化物磁性薄膜を形成したMOS FETの電気特性の測定] MOS FETのゲート上に強磁性体薄膜を形成した試料の電気特性を測定した.その結果,磁性体の残留磁化によって,ドレイン電流が増大する現象が観測され,計算により得られた見かけの移動殿変化は約20%程度であった.
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