水などの溶媒中に浸漬されたある種の高分子ゲルは温度、pH、電場などの物理的、化学的刺激に応答して体積を顕著に変化させる。このゲルの性質を利用すると、外界の刺激に応答して自律的に応答するアクチュエータを実現できるものと考えられる。本研究では、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、ビニルイミダゾールからなる共重合ゲルを用いて、pH変化に応答して内径を変化させる微小流路を形成し、その挙動を調べた。デバイスは、シリコーンチューブを型として挿入した2枚のカバーガラス中でゲルを形成させ、チューブを引き抜くことにより作製した。このゲルはpHに依存して解離し、イオン化する部位が存在する。その結果、中性付近で収縮状態となり、酸性側、アルカリ性側で膨潤する。はじめにゲルを収縮状態に保ち、ゲルの溶媒と異なるpHを有する溶液を微小流路中に流し込むと、ゲルが膨潤し、流路が収縮する様子が観察された。その収縮挙動は、流速、溶液の緩衝能、位置により変化し、流速が速いほど、緩衝能が小さいほど、変化は速くなった。また、酵素グルコースオキシダーゼやウレアーゼを固定し、これらによる酵素反応に伴うpH変化を利用して、同様のデバイスを構築した。その結果、グルコースや尿素濃度に応答し、収縮する流路を実現することができた。この研究を発展させれば、ある化学物質の存在下で拡張・収縮挙動を示す人工血管的なバイオミメティックデバイスへと展開できると考えている。
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