本研究は、一個の細胞が有する特定のmRNAをRT-PCRにより増幅、続けて無細胞転写翻訳共役反応を行ない、細胞固有の遺伝や形質の情報とリンクした蛋白質分子ライブラリーを構築する新規なシステムを開発することを目的としている。以下に今年度の主たる成果を記す。 免疫マウスよりのモノクローナル抗体の取得 作年度構築したシステムは、操作が複雑であったため、より単純化した1段階の一細胞RT-PCRと、改良した無細胞蛋白質合成系による抗体分子の合成を試みた。細胞のモデルとして、粘菌由来トランスグルタミナーゼTG3を認識する抗体を産生するハイブリドーマを用いて、新規システムの有効性を検討した。顕微鏡下で平均1細胞/ウェルになるよう細胞をばらまき、各ウェルごとに逆転写反応を行い、その後両端にタグ配列を付加した縮重プライマーを用いたPCRにより、L鎖とH鎖のFdフラグメントの増幅を試みた。縮重プライマーの濃度を極端に下げ、タグ配列に相同なプライマーを含んだPCR混合液の調整と最適化されたPCRプログラムにより、極微量の鋳型mRNAより特異的な遺伝子増幅に成功した。その結果L鎖およびH鎖のともに増幅されたウェルは13.5%であった。オーバラップPCRにより無細胞タンパク質合成に必要なT7RNAポリメラーゼのプロモーターおよびターミネーター配列を付加し、無細胞蛋白質合成系での直接発現を試み、抗原結合活性を有するFab断片の合成に成功した。また得られた遺伝子はL鎖H鎖ともに、germline遺伝子とそれぞれ高い相同性を示した。これらの実験結果は、1細胞から逆転写反応、PCR、さらには無細胞蛋白質合成系を連結させ、生細胞を一切用いずに、モノクローナル抗体及びその遺伝子を取得する新規なシステムの構築に成功したことを意味している。
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