研究概要 |
本研究では,液胞プロセシングの機構を利用して,細胞の分化を支えている液胞の機能タンパク質を網羅的に同定し,その局面での液胞の働きを総合的に把握することを目指した.申請者らが見出した液胞プロセシング酵素(VPE ; Vacuolar Processing Enzyme)は様々な液胞タンパク質の成熟化や活性化に関与する酵素で,液胞の機能発現を制御している.この酵素が欠損すると,液胞タンパク質は成熟化が起こらず,分子量の大きな前駆体のまま蓄積する. シロイヌナズナは4種類のVPE遺伝子を持っている.これまでに4種類のVPE遺伝子(αVPE,βVPE,γVPE,δVPE)のそれぞれを欠損している株については,T-DNAタグラインの中から既に選抜していた.本研究のツール作りとして,これらの4種類のVPE欠損株をかけ合わせることにより,様々な組み合わせの2重,3重,4重の欠損株を作製した. 高等植物の液胞は,種子にみられるタンパク質蓄積型液胞と栄養器官にみられる分解型液胞とに分けられる.このそれぞれについて下記の解析を行った.VPEの3重欠損変異体(αvpe βvpe γvpe)と野生型のそれぞれの種子のタンパク質蓄積型液胞に蓄えられている種子貯蔵タンパク質の構成成分を解析した.その結果,主要な種子貯蔵タンパク質12S globulinと25 albuminのホモログのすべてが合成された時の形である前駆体として蓄積していることがわかった.この成果は,種子貯蔵タンパク質の翻訳後プロセシングにはVPEが必須の役割を果たしていることを示している. 次に,栄養器官の分解型液胞の解析を行う目的で,4重欠損変異体(αvpe βvpe γvpe δvpe)と野生型のロゼット葉から液胞を単離する方法を確立した.この標品を2次元電気泳動に供し,電気泳動後の欠損株と野性型のパターンを比較し,両者で一致しないスポットを全て回収し,質量分析を行いVPE依存的に成熟化を起こすタンパク質を同定した.この解析方法を発展させ,液胞の膜タンパク質についても解析できる方法の確立を目指した.
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