シモダイタボヤは1個体(個虫)が体の一部から芽を出しまわりに自分とそっくりの個虫を無性生殖によってつくり出し、全体として大きな群体へと成長する。個虫は形も大きさも遺伝子組成も同じである。個体同士は血管でつながっており、群体としてある程度の協調した行動を示す。群体のサイズとエネルギー消費率の関係は、VO_2=0.0412M^<0.799>(式1)で近似できた。エネルギー消費率は酸素消費率VO_2(mlO_2/h)で測ったもの、Mは群体の湿重(g)である。ベキの数字0.799は3/4と統計的に区別できなかった。これは、群体性動物も3/4乗則を示すことの、世界で初めての報告である。ホヤが3/4乗を示すため、このシステムは個体性の動物を含めたサイズの生物学のモデル系となりうる。 実験的にホヤ群体を分割すると、分割後のエネルギー消費率は、分割後の体重から式1を用いて予測したものと違わない値となった。群体を癒合させると、やはり1週間以内に完全に癒合し、そのエネルギー消費率も式1で予測されるものになった。分割や癒合により群体サイズを変化させると、群体は変化後のサイズにみ合うエネルギー消費率に変わるわけで、これは実験的にサイズ効果を再現した世界初の結果であり、これによって、サイズ効果は異なる種間から統計的に導かれるアーテファクトではないことが明白になった。 シモダイタボヤは群体を構成している親の世代が退化して子の世代に完全に置き換わるtakeoverという現象を示す。takeover中のエネルギー消費率はサイズに正比例した。この結果と、同じユニットが網目状の血管でつながっている群体ボヤの構造とから、同じユニットが局所的な相互作用をもって自己組織化臨界状態にあることが、ベキ乗のサイズ効果の生じる原因ではないかという仮説を立てた。
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