細胞内で新規に合成され正しくフォールディングされた糖タンパク質は、カーゴレセプターと総称される輸送レセプターに選別が行われ、輸送小胞に積み込まれてオルガネラ間を運ばれる。これらのレセプターには、オルガネラ内腔側に植物マメ科レクチンと相同の糖結合ドメインが存在しており、細胞内のpHなどに呼応して、リガンドである糖タンパク質を効率良く輸送している。このメカニズムは、植物マメ科レクチンには存在しない巧妙な仕組みであり、生体防御を司る植物レクチンには不必要で、かつカーゴレセプターに必須の重要なマシナリーである。本研究では、このマシナリーのメカニズムを解明すると共に、そのメカニズムを積極的に利用した結合・解離機構をもつ新規の糖鎖認識分子の創製を目指した。カーゴレセプターであるVIP36の内腔側のレクチンドメインを、大腸菌で発現させて糖結合活性に及ぼす種々のpH、金属イオン等の検討をおこなった。また、共同研究によるNMRを用いた構造解析を行ったところ、VIP36はpH依存的に糖認識部位と反対側に大きな構造変化がもたらされ、この新たに露出する疎水的な部位により会合を引き起こすものと考えられた。また、VIP36に恒常的に結合しVIP36と共沈降してきたタンパク質の探索を行ったところ、分子量80kDa付近にバンドが観察され、LC-MS/MSを用いて同定を行ったところ、immunoglobulin bindinig protein(BiP)であることが明らかになった。VIP36とBiPとの結合はVIP36の糖結合活性を潰した変異体でも同様に観察されること、また結合量は絶えず一定であることから、恒常的に結合が起こっていることが予想された。これらの結合は、それぞれ大腸菌で組換体タンパク質を作成し、表面プラズモン共鳴により結合と解離のモードが観察できた。一方、シャペロンとしてのBiPが基質を結合する際には、金属イオンに依存しないことやATP存在下で結合しADP存在下で解離する事が知られているが、BiPとVIP36の結合はこれらとは異なっていることも明らかになった。これらの結果から、VIP36はBiPという新たな分子を伴って細胞内で輸送を司っていることを示唆しており、酸性条件下でVIP36の疎水的な領域が露出し、これにBiPが結合してもとの構造に戻す可能性が考えられた。現在、PETを用いた画像診断が医療に多大な貢献をしているが、目標とする分子はPETで検出可能な同位元素を分子内に抱えることが出来ることから、PET診断の新たなプローブの有力な候補と考えられる。
|