VIP36は中性では糖結合が見られないが、酸性になるに従って強い結合能が観察される。この理由は、おもにVIP36分子の会合によって引き起こされることが超遠心分析およびゲルろ過等の分析で既に明らかにしている。そこで類似のカーゴレセプターERGIC-53についても、同様に可溶性の組換えタンパク質を調製しフローサイトメトリーで糖結合活性を調べた。ERGIC-53と結合する新規分子MCFD2が存在し、MCFD2と結合することで初めて糖結合活性が獲得されることが示された。C末端側のEFハンド構造内に点変異を持つ2種類のMCFD2変異体は、ERGIC-53との結合能が100分の1に減少しており、糖結合活性を誘導することはできなかった。さらに表面プラズモン共鳴を用いて、ERGIC-53とMCFD2の結合定数を種々のpH並びにCa濃度に関して詳細に調べたところ、pH7.0からpH6.0の範囲で、0.2〜0.1mM CaCl2存在下で結合定数が1/100に減少した。小胞体内からゴルジ体へ移行する際の局所的なCa濃度変化によりERGIC-53からMCFD2が解離し、リガンドの糖を遊離するものと考えられた。VIP36に相同性を持つVIPLに関しても糖結合活性を検出することができたが、pHによる大きな差はなく、Caで多少変化が見られた。VIP36はゴルジ体を中心に広く小胞体や細胞表面に、一方ERGIC-53は小胞体からシスゴルジ体に、またVIPLは小胞体に限局している。異なる守備範囲において、VIP36は単量体から多量体形成により、一方ERGIC-53はMCFD2との会合によりそれぞれ活性調節がなされており、これら分子の挙動が細胞内オルガネラのpHやCa濃度に連関していることから、リガンドの結合・解離機構を2つの手法で導入できる可能性が示唆された。
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