研究概要 |
深海は低温(0〜4℃)・高圧(50〜100MPa)の生物には不利な環境と考えられるが、このような環境下でも近年、多くの生命が見出されている。本研究では、琉球海溝の深度5,000mの海底で採取した泥中から分離した深海微生物Shewanella violacea DSS12株およびPhotobacterium profundum SS9株、日本海溝の深度6,000mの海底で採取した泥中から分離したMoritella japonica DSK1株およびマリアナ海溝の深度11,000mの海底で採取した泥中から分離したMoritella yayanosii DB21MT-5株からジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を大腸菌にクローニングし、これらの塩基配列を決定した。これら4種の深海微生物由来DHFRと大腸菌由来DHFRとの一次構造の相同性は33〜56%であった。さらにこれら4種のDHFRの大腸菌での大量発現系を構築し、蛋白質を精製して、その構造や機能を比較した。遠紫外円二色性スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した結果、4種のDHFRの立体構造は大腸菌由来DHFRとほぼ同じであると考えられた。また、酵素機能の温度依存性を調べた結果、DHFR活性の至適温度と各微生物の生育至適温度との間に相関は見られなかった。さらに酵素機能の圧力依存性を調べた結果、大腸菌およびMoritella japonica DSK1株由来DHFRの酵素活性は加圧と共に低下したが、他の3種の微生物由来DHFRでは、100MPa程度の加圧では活性の低下が見られないか、逆に若干上昇することがわかった。この結果は、これら3種の微生物由来のDHFRでは高圧下でも機能を発現できるような何らかの機構が備わっていることを示している。
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