研究概要 |
K-Cl共輸送体(KCC)の胃における機能はこれまで不明であった。本研究では、胃酸(HCl)の分泌機構におけるK-Cl共輸送体(KCC)の役割を解明することを目的とした実験を行い、以下のような新しい知見を得た。 1.ウサギ、ラット、マウスの胃粘膜に発現するKCC3は、KCC3aアイソフォーム(180kDa)であることがわかった。脳のKCC3a(150kDa)のサイズとは異なったが、PNGase F処理によって180kDaおよび150kDaのバンドは共にコアタンパク質である130kDaに収束した。したがって胃酸分泌細胞のKCC3aは固有の糖鎖付加を受けているものと考えられた。 2.ラット胃粘膜切片の免疫組織染色を行ったところ、胃酸分泌細胞においてKCC3aはNa^+,K^+-ATPaseの分布と一致し、H^+,K^+-ATPaseの分布とは異なったことから、KCC3aは基底側膜に局在することがわかった。 3.テトラサイクリン処理によりKCC3aを安定発現させることができるT-Rexシステム導入細胞を構築した。興味深いことにKCC3aの発現により、Na^+,K^+-ATPaseの発現量が変化しないにもかかわらず、ATP加水分解活性は有意に上昇した。したがってKCC3aはNa^+,K^+-ATPaseと機能的に共役している可能性が考えられた。 4.ラット、マウスの胃粘膜に新たにKCC4(160kDa)が発現していることを見出し、免疫組織染色によりKCC4は胃酸分泌細胞分泌膜においてH^+,K^+-ATPaseと共存することがわかった。KCC4は、胃酸分泌能の発達している胃腺上部の細胞に高発現していることから、KCC4の胃酸分泌機構への関与が示唆された。 以上のことから、KCC3aおよびKCC4が関与する新しい胃酸分泌のスキームが考えられた。
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