研究概要 |
哺乳類の中枢神経系の速い神経伝達はグルタミン酸受容体チャネル(GluR)により担われる。更にGluRはシナプス形成や記憶学習、さらには神経細胞死などの多彩な神経機能に関与する。従って、生理的・病的状態におけるシナプス伝達機構を理解するためには、GluRの構造を解明することが非常に重要な課題となっている。しかし膜蛋白質、とりわけGluRのような多量体構造を取る蛋白質の精製は容易ではない。本研究では、GluRのN末端部に、非常に安定した多量体構造を取る人工ペプチドを付加するという新しいアイデアにより、GluRを構造的に安定させて構造解析に適したGluRの精製法を開発することを目的とした。 33アミノ酸からなるGCN4ペプチドは、ロイシンジッパー構造を持ち、高温でも非常に安定な4量体を形成することが知られている。また、ロイシンジッパー部位の数ヶ所のアミノ酸を変異させると、今度は非常に安定な2量体、3量体を形成する。そこで、GluRのN末端部にこれらの人工ペプチドを付加し、その構造と機能について検討した。GluR1のN末端部にGCN4ペプチドを導入すると、その多量体構造に応じて、GluR1チャネル複合体におけるGluR1サブユニットの数が正確にコントロールできた。いずれのGluR1変異体も、細胞表面に正常に輸送されるが、4量体型GCN4をN末端部に導入した時にのみ、正常のチャネル機能が観察されることを電気生理学的に確認した。これらのことから、GluR1は4量体構造をとること、N末端側に4量体化ペプチドを導入したGluR1は正常機能を持つことが確認できた(J Biol Chem,2005)。この結果を活かして、GluRの精製法をさらに検討中である。
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