研究概要 |
申請者(志村)はこれまでに、理化学研究所播磨研究所(SPring-8)と大阪大学が共同で開発した世界最小のナノビームによる走査型蛍光X線顕微強(SXFM)を用いて、哺乳動物細胞内の元素分布を測定することに成功している。医学利用での応用として,申請者はPt製剤(シスプラチン)に対する耐性獲得機序を明らかにするため、耐性細胞の元素プロファイルを行ったところ、亜鉛が細胞内グルタチオンと高い相関を持ち,Pt製剤の細胞外除去機構に関与していることを明らかにし、Cancer Research誌(業績参照)へ発表した。 SXFMは、亜鉛等比較的原子番号の高い元素に有効である。一方,リン等を含む生物機能には重要な、比較的低エネルギー元素の解析は、困難であった。低エネルギー元素を感度よく測定するために、バックグラウンドとして検出される基板(SiN)由来のケイ素、大気中由来のアルゴンの除去が必須である。そこで、基板の素材検討から行い、炭素および水素からなるプロレンフィルムを選択した。さらに、大気をヘリウムガスへ置換することで大気中アルゴンの影響もなくなり,リン、カリウム、カルシウム等の比較的低エネルギー元素の測定が可能となった。しかし、既成のプロレンフィルムは、細胞毒性は認めないが、細胞付着および増殖には不適である。また、フィルム表面が粗造なため、微分干渉像には適してない。そのため現在は、予め固定処理をした浮遊細胞を設置するための基板として使用している。 現在、炭素素材でのオーダー加工を検討している。この細胞基板では、単細胞が位置できる溝を設計に加えている。この溝により、細胞の位置確認を行わずに測定可能(オートパイロット測定)が可能となる。さらに、表面が滑沢成形されれば、微分干渉像や細胞増殖にも適した素材が完成できると考えている。
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