本年度の研究では、ニワトリおよびウズラ胚の松果体を実験モデルに、松果体組織の器官培養、胚移植法によって、神経組織発生能、眼組織発生能を調査するとともに、そのような分化能が個体の発生では抑制されているメカニズムについて調査研究した。すでに、胚の松果体細胞を培養下に移すと桿状体視細胞、錐状体視細胞、多様な神経細胞が分化することを明らかにしており、網膜細胞分化能をよく維持していることを明らかにしている。本年は、これらの細胞が網膜様の層状構造を形成するかどうかを旋回培養法で調査した。ニワトリ8日胚の松果体を分離、コラゲナーゼで表皮と周囲結合組織を除去後、松果体原基だけを分離して、トリプシンで解離した。種々の分離、解離条件を検討した。次に解離した松果体細胞を旋回培養して細胞凝集塊を作らせて、その構造を形態学的に調べた。できるだけ大型の凝集塊を作る条件を種々検討した。以上の結果、ほぼ安定して凝集塊を作ることが可能となり、今後層構築ファクターについて網膜と比較検討することが可能となった。今回の検討では、三層構造が確認され、視細胞マーカー陽性の細胞が最外層に分布、また、Pax6陽性の細胞が網膜の場合と同様に中間層に検出された。これは、基本的には網膜層構築とよく一致していると言える。次年度では、さらに多様な網膜マーカーによって、松果体凝集塊の層構造を網膜と比較する必要がある。次に、初期ニワトリ胚の松果体細胞と周囲結合組織の相互作用を眼内移植によって調べたところ、周囲結合組織が松果体濾胞構造の形成に必要であることが明らかになった。以上のことから、松果体の発生と分化能の発現に周囲結合組織が重要な役割をもつことが強く示唆されたので、次年度以降、この二つの実験系でこの問題を詳細に検討する。
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