松果体は眼と同様に間脳から発生し、間脳の背側正中部に位置する不対器官である。下等な動物の松果体は眼と同様に光受容能をもち、視細胞が分化する。脊椎動物の進化とともに光受容能は失われ、内分泌器官となる。これと平行して、組織形態上も神経組織から内分泌組織へと変化する。本研究では、松果体の発生メカニズムを研究することによって眼の発生との共通性を探り、両器官の分化多様性が何によって生じるのかを明らかにする。 本年度は、トリ胚の松果体を材料にして、松果体細胞が網膜組織に分化しうるかどうかを検討した。トリ松果体は、小さな濾胞構造の集合体であり、その間隙を結合組織性の細胞が埋めている。濾胞構造内には視細胞があるが、神経細胞はほとんどなく、網膜や脳組織に見られるような整然とした多重層の構造はつくらない。中枢神経組織に特徴的なこの多層構造を松果体細胞が形成可能かどうかを旋回培養の手法を用いて解析した。胚の松果体組織をコラゲナーゼ処理後トリプシンによって解離し、旋回培養により、再凝集させる。コラゲナーゼ処理を省くと結合組織細胞が残る。また、培養液に網膜細胞の培養上清を添加してその効果を調べた。結合組織細胞がなく、網膜培養上清を添加して培養すると大きな再凝集塊が形成された。切片を作製して構造を調べると、視細胞の他に神経細胞が多数分化し、これらの細胞は層構造を形成した。一方、結合組織性の細胞があると小型の再凝集塊が形成され、神経細胞の分化はみられず、生体の濾胞構造に類似したものが形成された。これらの結果から、松果体の細胞には脳や網膜と同様に大きな層状構造の形成能があるが、松果体内の結合組織性の細胞によってこの能力が抑制されていることが考えられる。この結合組織精細胞は神経堤に由来するものであり、松果体の発生運命を決める上で重要な役割をもつと言える。以上のことから、松果体の発生に神経堤が関与することが示唆され、これが進化的にどのような意味を持つかを今後より詳細に調べる必要がある。
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