研究課題
世界の乾燥地域で発掘されるミイラは、軟部組織が残っているために、骨の観察が中心となる人類学の研究には適さず、人類学の研究ではそれほど重きをおかれていない。しかし近年、DNA分析をはじめとする生化学的な分析方法が開発されたことによって、ミイラからも様々な情報を引き出すことが可能になった。本研究では、アンデスのミイラを対象にこれらの分析を行い、どのような情報が抽出できるかを検証した。DNA分析:本年はペルーの国立人類学考古学博物館が所蔵するパラカス・ナスカ文化期の4体のミイラから筋肉組織約0.5gずつを切り取り、DNA分析を実行した。最終的に分析に成功したのは2体だけだったが、2千年ほどの前のミイラにもDNAが分析可能なかたちで残っていることが証明できた。ミトコンドリアDNAの制御領域の解析から、ナスカ後期のミイラからは、ハプログループAと呼ばれるDNA型が検出された。パラカス文化期に属するミイラから検出されたDNAタイプは現在の先住民の中には見あたらず、アンデス南部の砂漠地帯には、現在では絶滅してしまったDNAを持った人たちが住んでいた可能性が示された。食性分析:ミイラの窒素と炭素の安定同位対比を比較することによって、食性を推定した。特に今回行った髪の毛のタンパク質の分析によって、食生活が季節的な変動を起こしていることを証明した。このような研究は、骨を使った研究では不可能で、軟部組織の残っているミイラの分析の有効性が示された。また、パラカスとナスカのミイラでは食性に違いのあることも判明した。年代測定:ミイラの筋組織とそれを包む布を材料に、C14による年代測定を行った。その結果ナスカ、パラカス共に考古学的に推定された年代とほぼ一致していることを証明した。
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