本年度はOryza属AAゲノムにおける内在性イネツングロバシリフォルムウイルス(ERTBV)の存在様式に関して調査を行い、以下の2点についてその結果をまとめることができた。 (1)イネ日本晴ゲノムに散在する6つのERTBV断片をはさむプライマーを設計し、PCRによってAAゲノム種34系統における多型の検出を行った。多型の結果から、日本晴と同一のERTBVの挿入はO.sativaやO.rufipogonに集中していることが判ったが、さらにO.sativa内でさえもこのERTBVの挿入に関して多型を検出することができた。一方、サザンハイブリダイゼーション分析によって、O.longistaminataやO.meridionalisゲノムにおいてもO.sativaやO.rufipogonに次ぐ数のERTBV断片が検出されている。従って、ERTBVのイネゲノムに対する挿入はAAゲノム種が種分化した後に起こったと考えられる。かつてウイルスとして存在していたERTBVは、東南アジア周辺域に分布するRTBVに比べてより広範な領域に分布していた可能性が示唆された。 (2)日本晴ゲノムの配列から、ほぼ全てのERTBV断片の末端にATの単純な反復配列(AT-SSR)が配置されていることが明かとなっている。ERTBVの挿入について多型が生じていた系統を対象として塩基配列の比較解析を行った結果、日本晴ゲノムで同定されたAT-SSRより長い同配列がERTBVの代わりに見出された。従って、ERTBVがイネゲノムのAT-SSRを標的にして挿入することが推定された。このAT-SSRは核マトリクス結合配列(MAR)として機能することが予測され、ERTBVはMARに取り込まれた可能性が高い。
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