作物の根は分泌層で覆われており、この層を介して根圏土壌中の物質が吸収される。本研究では、根-土壌界面に存在する分泌層内での物質の動きを明らかにする方法論を検討し、安定同位体でラベルした水や窒素が根圏から分泌層を介して根面へ取り込まれる過程を明らかにすることを目的とする。本年度は、海外共同研究者のBryan Griffiths博士が来日し、今後の研究計画の詳細を打ち合わせするとともに予備的な試験をいくつか実施した。樹脂包埋したトウモロコシの根の準超薄切片を供試し、飛行時間型2次イオン質量分析計(Tof-SIMS)で観察を試みたが、樹脂が妨害するため表層イオンの検出は困難であった。パラフィン包埋サンプルについても同様であった。凍結切片についてはうまく表層イオンの検出は行えたが、一回に観察できるサンプル数が限られること、1サンプルの観察に半日を要することから予備的に大量のサンプルを観察することが困難なため断念した。Tof-SIMSによる観察用のシリコン板を寒天培地上にいくつか配置し、トウモロコシ根を培地上で生育させることによって、根をシリコン板上に這わせるようにした。その後、シリコン板だけをTof-SIMSにより観察すれば、シリコン板上に局所的に与えた養水分が根へ取り込まれる課程が測定し得る可能性があることが判明した。今後、上記の方法論を用いて以下の検討を行う。^<15>Nでラベルした硫酸アンモニウムを重水(D_2O)に溶かしシリコン板上に投与し、その一定時間後にシリコン板を回収する。Tof-SIMSによりシリコン板上の元素の分布を観察することによって、養水分の取り込み課程を観察することが可能な実験条件を検討していく予定である。
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