作物の根は分泌層で覆われており、この層を介して根圏土壌中の物質が吸収される。本研究では、根-土壌界面に存在する分泌層内での物質の動きを明らかにする方法論を検討し、安定同位体でラベルした水や窒素が根圏から分泌層を介して根面へ取り込まれる過程を明らかにすることを目的としている。本年度は、昨年検討したシリコン板法とともに、寒天培地法も含めて検討を継続した。飛行時間型2次イオン質量分析計(Tof-SIMS)による観察のためには、根の表面と投与した同位体窒素や水素を減圧条件下にさらす必要があるが、この時に起こるアーティファクトの克服が容易ではないことが判明した。そこで植物根の異なる部位において養水分吸収の様相に違いがあれば、その異なる部位で養水分吸収様式を比較検討することにより、設定した研究課題を明らかにする糸口が得られると考えて、とくに異なる根軸部位での根の養分吸収様式についての予備的な検討を行った。その結果、根軸の位置の違いにより養分吸収が異なることを土耕栽培試験で確かめた。この結果を解釈するうえで、土壌の環境の違いの影響を考慮する必要があるため、今後さらに詳細な検討を加える必要がある。それと同時に、これまで同様、シリコン板上で局所的に与えた養水分が根へ取り込まれる課程を測定するための方法論の検討を引き続き行なっていくとともに、この方法論に適した根生育培地を作成し、異なる根の部位での養水分吸収を観察していく予定である。
|