栃木県芳賀郡市貝町の谷津を対象として調査を行った。前年度および本年度春期に採取した堆積物を蒔きだした結果は、種子は水路中の滞留部分に専ら堆積していること、谷津全体としては種子の種組成に空間的なパターンが認められるものの近接した地点の間では種組成の違いが明瞭には認められないことを示唆した。しかし、堆積物中の種子は想定していたよりも少なく、確実な判断を行うためには再調査が必要と判断された。そのため調査計画を再検討し、2006年1月に再度、堆積物の採取を行った。 また、堆積物中の種子分布パターンを説明する上で、谷津内の種子供給ポテンシャルの評価が不可欠であるため、畦畔を中心とした水路沿いの植生の空間パターンを調査した。植生調査は2005年6月および2005年10月の2回にわたり行った。調査地を7つの立地タイプ(水田間畦畔、水路脇畦畔、水路斜面、谷壁斜面下部、農道、休耕田畑、支谷津放棄田)に区分し、1m^2の方形区を各立地タイプに複数配置し、方形区内に出現した植物種の名前と被度を記録した。その結果、対象谷津景観内の植生は大きくは次の7つの類型に区分された。(1)ハルジオン優占型畦畔草地・休耕田、(2)ヒメジョオン優占型畦畔草地・休耕畑、(3)水路斜面および谷壁斜面下部の草原性植物群落、(4)休耕1年目休耕田植生、(5)セイタカアワダチソウ優占型乾生放棄田、(6)セイタカアワダチソウ優占型湿生放棄田、(7)ヨシ優占型湿生放棄田。このうち(1)と(2)の畦畔草地に限定して、谷津上流部から1.2kmの区間で植生変化パターンを抽出したところ、上流から下流にかけてシバ優占型群落から水田雑草型植生群落への組成変化が認められた。このような組成変化は、水田畦畔と水路との比高差による土壌湿度の変化と、水路周辺植生からの種子供給の違いが関与するものと考えられた。
|