我々は、バキュロウイルス(BmNPV:カイコ多核体病ウイルス)のゲノム全域をカバーするゲノムライブラリーの中から、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーターを活性化するウイルスゲノム断片を複数得ていた。活性化の度合いは個々の断片により異なり、相乗効果も認められた。これらのゲノム断片には複数のウイルス遺伝子が含まれることから、ゲノム断片に含まれるウイルス遺伝子をそれぞれ単独で発現させるためにクローニングし、発現ベクターに組み込んだ組換えプラスミドを作製した。次に、これらを35Sプロモーターあるいは19Sプロモーターの制御下に置いた緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子(レポーター遺伝子)とともに昆虫細胞(BmN、S2細胞)に導入し、発現したレポーター活性を調べることで、単独あるいは協調的に35Sプロモーターの活性化に関わるウイルス遺伝子の同定を進めたところ、ie1などを含む8個の活性化遺伝子が同定され、その中にはこれまで全く機能が不明であった遺伝子が2個含まれていた。今年度、35Sプロモーター活性化能が高かったウイルス遺伝子に焦点を当てて、それらが植物細胞内でも35Sプロモーター活性化因子として機能するかどうかを解析した。その結果、その一部は植物体内でも明瞭に35Sプロモーターを活性化する能力を保持していることが判明し、本遺伝子産物の35Sプロモーター活性化における作用点は昆虫でも植物でも保存されている転写機構に在ることが推定された。しかし、植物で活性化が認められない遺伝子も存在し、これらの遺伝子の転写活性化機構を解析することで昆虫と植物の転写機構の異同について分子レベルでの理解を深めることが可能であると考えられた。
|