研究概要 |
カイコの培養細胞BmNのEST配列の中に,植物ウイルスに相同性を示す塩基配列が大量に存在していた。この配列は,染色体にコードされるのではなく,RNA単独で複製していると考えられた。複数のcDNAを解析し,RNAゲノム全長6,513塩基の一次構造を明らかにした。そこにはRNAレプリカーゼ,コートタンパク質,そして新規タンパク質をコードする三つのORFが存在していた。前2者のアミノ酸配列は,チモウイルス科のMaculavirus属の遺伝子産物に高い相同性を示した。 BmN細胞の抽出物から超遠心で当該RNAを含む画分を濃縮し,電子顕微鏡で観察した結果,25〜30nmの球形粒子が観察された。同じ画分をヤガ科昆虫由来のSf-9細胞に感染させたところ,このRNAが増殖することが明らかになった。また,同一のRNAが由来の異なる複数のカイコ培養細胞からも検出された。よって,この感染性粒子はMaculavirus属に近い新種のプラス鎖ssRNAウイルスであると考えた。チモウイルス科は,従来植物病原ウイルスとして知られてきたグループであるが,鱗翅目昆虫の細胞へ感染するものがあることは初めての発見である。 BmN細胞には,6.5kbのゲノムRNA以外に,コートタンパク質のORFのみを含む1.3kbのサブゲノミックRNAが存在していた。それらとは別に,ゲノムRNAの5'末端約190塩基の配列がタンデムに繰り返す特殊なRNAが存在しており,これは複製中間体かもしれない。
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