この研究では、土壌の肥沃性や病害発生の程度を予測する指標を作成し、土壌の微生物性診断技術の開発を目指している。今年度は研究の初年度として、長野県中信農業試験場および茨城県農業試験場の長期連用圃場を使用して土壌微生物性の分析手法のいくつかを試験した。これらの圃場は関東近郊で同じ施肥条件で農薬を使用せずに長期連用された各県の試験場の実施状況を調べた結果、最適な圃場として選ばれたものである。土壌の採取は夏季栽培作物の作付けを行う直前に行った。それぞれの圃場は約10の施肥条件の違う区画に分かれているが、採取はそれぞれから6サンプル取り、土壌の物理化学的性質、全脂肪酸組成、全DNAを用いた16S rDNAを対象としてTRFLP分析などを行った。各作物の収量はそれぞれの試験場からデータをいただいた。すべてのデータに多変量解析を行ったところ、作物収量と関連する特徴的な菌体脂肪酸10個およびDNAフラグメント10個が見出された。2つの圃場のいずれでも見出された13:0 2OH、19:0 anteiso、481bpT-RF、482bpT-RFは普遍的に存在する指標性のある微生物に由来するものと考えられた。13:0 2OHは、Streptococcus bovisに特異的に、19:0 anteisoは、一部のBacillus thuringiensisとStaphylococcusに特異的に含まれる脂肪酸である。また、481bp、482bpのT-RFは、どちらもγ-proteobacteriaに属している。どちらの土壌からもγ-proteobacteriaに属するPseudomonas species、またはXanthomonas speciesに特異的に含まれる脂肪酸が抽出されていることから、Pseudomonas speciesやXanthomonas species、Bacillus thuringiensisやStreptococcus bovisは、土壌タイプ、栽培作物によらず、普遍的に収量に影響を与えている菌群である可能性が示唆された。
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