研究概要 |
分裂酵母は細胞周期研究のモデル生物として有名であるが、ゲノム配列が決定されると、わずか4,900の遺伝子しか持たない、これまでに知られる最もゲノムサイズの小さな真核生物であることが判明した。にもかかわらず、イントロンや発現調節などは出芽酵母より高等真核生物に近く、驚くべきことに100種類以上ものヒト疾病医関連遺伝子が保存されており、ケミカルゲノミクスを行うための優れた生物である。我々のグループは、世界に先駆けてこの分裂酵母全遺伝子ORFのGateway法によるクローン化に成功した。そこで取得した4,900のORFを誘導可能なプロモーターによって分裂酵母内で発現させ、これを利用して薬剤標的分子同定のための基盤技術を確立することを目的とした。取得したORFの全てについて誘導発現が可能なnmt1プロモーターの制御下におき、C-末端にHis6-Flagという短いタグを連結した発現ベクターを作製し、分裂酵母のleu1-32遺伝子座にインテグレーションさせた形質転換株を作製した。全遺伝子の98%にあたる約4800遺伝子について形質転換株が取得された。これら全ての形質転換株について1つずつHisタグ抗体によるウェスタンブロット解析を行った結果、4300以上のクローンで発現が確認された。得られた発現クローンを用いて、標的分子がわかっている既存薬(フルコナゾール)に対する感受性が、標的分子あるいはそのパスウェイの過剰発現によって変化するかどうかを確認した。その結果、フルコナゾールの標的であるエルゴステロール合成に関与するシトクロムP-450の過剰発現株はフルコナゾール耐性となることが確認された。したがって本研究により、分裂酵母ポストゲノムを用いたケミカルゲノミクスが可能であることが示された。
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