研究概要 |
近年、生態系の理解や未知遺伝子資源の開拓を目的として、環境ゲノム情報が急速に明らかにされつつある。地球上の生物圏の80%以上が深海や極地等の低温環境であることを考えると、環境ゲノムがコードするタンパク質の多くが熱安定性の低い低温活性タンパク質であると推測される。低温活性タンパク質の多くは、大腸菌等を宿主とした常温での発現系では生産が難しい。そこで本研究では、南極海水より単離された低温菌Shewanella libingstonensis Ac10を宿主とし、低温でタンパク質を生産する系の開発を行った。本菌の最適増殖温度は18℃であるが、4℃でも良好に生育する。我々は本菌の全ゲノム配列をほぼ明らかにしており、ゲノム情報に基づいた生産系の構築・改良が可能である。まず、本菌を宿主として複製するコスミドベクターを見いだし、形質転換法を確立した。さらに、本菌のタンパク質を二次元電気泳動で解析し、高生産されているものを同定した。そのプロモーターを上記ベクターに組み込んで発現ベクターを構築した。本生産系の有用性を確かめるため、好冷菌Desulfotalea psychrophila由来の酵素タンパク質の生産を行った。D. psychrophilaは至適温度10℃の好冷菌であり、その保持するタンパク質の多くが熱に不安定であると推測される。そこでD.psychrophila由来のoligoendopeptidase, aminopeptidase, prolidase, β-glucosidaseを18℃で発現させた。その結果、4種類とも可溶性タンパク質として高生産された。prolidaseとβ-glucosidaseについては、大腸菌を宿主とした場合、低温(18℃)で培養しても、ほとんど生産されなかった。以上の結果から、本生産系が低温環境由来等の熱安定性の低いタンパク質の生産に適していることが示唆された。
|