研究概要 |
鱗翅目昆虫の成虫の翅には,窒素代謝に関連した色素類のほか寄主植物など由来の防御性生理活性物質の蓄積が見られる.チョウ・ガ類の新鮮虫体の翅と胴部を分離抽出し,幼虫時代に生育した寄主植物抽出物と各種クロマトグラフィー,スペクトロメトリーによってプロフィールの比較を行ない共通成分を追跡した. 1)ホソオチョウ(アゲハチョウ科)はウマノスズクサを食草とする.オスは白とメスはとらふ模様の性的二型を示すことから,鱗粉に含まれる物質の化学組成が大きく異なることが予想された.それぞれの翅の成分を分析した結果,薄層クロマトグラフィーにおいてメスに特有の成分の存在が確認された.微量のため構造解析には至っていないが,大量抽出による分析を進める計画で人工飼料による条件の検討中である,一方,ホソオチョウの幼虫は後頭部に一対の防御分泌器官である肉角を備えている.この成分分析の結果,食草由来の有毒アルカロイド(ニトロ誘導体)アリストロキア酸関連成分の蓄積を認めた. 2)シロツバメエダシャク(シャクガ科)はイチイ(イチイ科)を食樹としている単食性のガである.イチイには,細胞毒性の強い抗がん剤として知られるtaxolが含まれていることから,同物質の摂取後の行方を追跡した.その結果,関連物質は幼虫の排泄した糞の中に認められ,虫体内へのintactな取り込みは確認できなかった.興味深いことに,終齢幼虫は営繭に際して糞・イチイ組織などをつづり合わせる習性をもつことから,繭自体が防御性の生理活性物質で覆われている可能性を示唆した.シャクガ科数種で同様の観点から分析を進めている.
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