本研究では、阻害剤頭部に電子リレーユニットとしてフェニルエチニル(PE)ユニットを組み込んだ導電性阻害剤ワイヤーを合成し、金電極表面にこのワイヤー分子の自己集積単分子膜を形成させることにより、電極と呼吸鎖酵素内のユビキノン反応部位とのピンポイント電子移動の観測を可能にする実験方法を確立することを目的としている。 研究対象とする阻害剤としては、ミトコンドリア複合体-I(NADH-ユビキノン酸化還元酵素)の強力な阻害剤であるアセトゲニンを選択した。本年度は、アセトゲニン分子の側鎖あるいはスペーサー部分に三重結合を1個あるいは複数個導入する合成方法を検討した。まず1個の三重結合結合を位置特異的に導入する方法として、所定の位置にエンイン構造を形成させ、三重結合のみをコバルト錯体で選択的に保護した条件下で二重結合のみをジイミドにより水素化し、続いてコバルト錯体を脱保護することにより三重結合を有するアセトゲニン誘導体へと導いた。この方法により、スペーサー部の任意の位置に三重結合を導入したアセトゲニン誘導体を合成し、複合体-Iに対する阻害活性を評価したところ、スペーサー部の柔軟性が変化しても阻害活性に大きな影響はないことが明らかになった。 また、連結した三重結合を導入する方法として、末端アルキンどうしの直接的なクロスカップリング反応をいろいろ検討した結果、tri-2-furylphosphine存在下Pd_2(dba)_2を触媒として用いることによって連結した三重結合を有するアセトゲニンを高収率で合成することができた。
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