研究概要 |
我が国の死因の第一位は悪性新生物(癌)であり、そのうち肝癌による死亡者は年間3万人を超す。肝癌の約80%はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染に起因する。現在、国内のHCV感染者は約200万人に昇り、HCV感染による肝癌発症は深刻な社会問題になっている。先に我々は、肝細胞内のオルガネラ膜、とくにミトコンドリア膜を構成するリン脂質の激しい過酸化による遺伝子変異がHCVによる肝発癌の発症にとくに重要であることを、HCVのコア蛋白遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いてはじめて実証することに成功した(Cancer Res.,61,4365-4370(2001))。そこで本研究は、肝臓の膜リン脂質の過酸化障害を緩和抑制できる食品機能分子を見出し、これをC型肝炎および肝癌の予防に役立てることを目的とし、下記の研究を行った。 (1)HCVコア蛋白を高発現する培養肝細胞の作製、C型肝炎予防に向けた食品機能成分のスクリーニング 上記のトランスジェニックマウスの作製に使用したプラスミドを、HepG2肝癌細胞に形質転換した。作製したプラスミド導入HepG2は、コア蛋白を高発現し、脂肪滴の出現とともにオルガネラ膜リン脂質の過酸化が誘発された。そして最終的には、アポトーシスを引き起こして死に至った。したがって、このプラスミド導入HepG2を用いることで、HCVによる悪影響(膜脂質過酸化の亢進、コア蛋白の発現、脂肪滴の形成、アポトーシスの誘導)を緩和できる食品機能成分のスクリーニングが可能になった。そこで所有する400点以上にわたる東北地域の様々な農産物からのDMSO抽出物をプラスミド導入HepG2に処理し、機能成分のスクリーニングを行った。その結果、肝細胞のコア蛋白の発現を抑えるなどして膜リン脂質の過酸化を効果的に抑制できる抽出物を数種見出すことができた。 (2)活性成分の構造解析とin vivo効能評価 上記で見出したDMSO抽出部中の活性成分について、現在、高速液体クロマトグラフ-質量分析装置、各種NMR装置、により化学構造の解析を進めている。この構造解析が終了次第、機能成分をHCVのコア蛋白遺伝子を導入したトランスジェニックマウスに摂取させ、in vivoでの作用を確認する予定である。 このように活性成分の構造解析について当初計画からの遅れがあったものの、今後も研究を継続し活性成分の同定につなげ、C型肝炎における肝炎から肝発癌の形成過程の酸化ストレスを緩和できる食品機能成分の確立とその活用を目指している。
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