研究概要 |
種子の採取 種子を採取した母樹は,独立行政法人林木育種センター東北育種場奥羽増殖保存園(山形県東根市)の交配園に植栽されている西部育種区の精英樹11クローンである。同保存園には東部育種区の精英樹クローンの交配試験地があり,そのうちの3クローンからも採取をおこなった。種子の1,000粒重は,精英樹クローンにより有意に異なり,六日町4号,栃尾市1号,能代3号,岩船7号などで大きく,気仙5号,上北3号,新庄1号,宮城3号などで小さかった。供試した14精英樹クローンのうち,新庄1号と東南置賜4号は,採取種子数が少なく,発芽率も低かったことから,光合成量子収率の実験はできなかった。 量子収率パラメーターの測定 ミニプランターに鹿沼土を入れ,液体肥料を施して,発芽床をつくった。播種後,発芽した個体の子葉について,光合成量子収率に関するパラメーターをPFD(光合成有効光量子束密度)との関係で調べた。測定にはクロロフィル蛍光測定器(PAM-2000,Walz, Germany)を用い,Fv/Fm(暗黒順応最大量子収率),Y(光照射下量子収率),rETR(相対電子伝達速度),NPQ(非光化学Q係数),ECE(励起捕捉率),qP(光化学Qパラメーター),qN(非光化学Qパラメーター)を算定した。 精英樹クローンの特性評価 Fv/Fmは,どの精英樹クローンでも0.8前後であったが,上北3号では他と比べ明らかに低かった。rETRは,PFD300〜400μmol q.m^<-2>s^<-1>で光飽和に達した。rETRの光飽和値(rETR_<max>)は精英樹クローンにより,有意に異なっていた。rETR_<max>は新井1号,扇田2号,宮城3号,六日町4号で大きく,鹿角5号,上北3号,気仙5号で小さかった。PFDが500μmol q.m^<-2>s^<-1>を超えると,rETRは一部の精英樹クローンで明らかに低下し,とくに鹿角5号と上北3号で顕著であった。一般に,葉の光合成速度と光強度との関係において,最大速度が大きいものは陽生タイプである。これに対し,小さいものは陰生タイプで,強光下では光合成速度の低下(光阻害)が起こりやすい。このことから,新井1号,扇田2号,宮城3号,六日町4号は陽生タイプ,鹿角5号と上北3号,あるいは気仙5号が陰生タイプと言えよう。 NPQとPFDとの関係は,ゴンペルツ成長関数でよく近似され,変曲点と最大値が与えられた。変曲点のx座標(PFD_n)はrETRの光飽和点でのPFDと密接に関係していた。変曲点のy座標(NPQ_n)は,光飽和点での非光化学Qの程度を表す。精英樹クローンについて,PFD_nとNPQ_nとの関係で散布図を描いてみた。PFD_nとNPQ_nとの間には正の相関があり,両値は精英樹クローン間で有意に異なっていた。両値とも大きかったのは新井1号,扇田2号,宮城3号,六日町4号であり,両値とも小さかったのは岩船7号,鹿角5号,上北3号,気仙5号,新発田3号であった。残りの精英樹クローンは,中間的な値をもつか,あるいは広い変動幅をもっていた。光合成の生態生理の視点からは,両値とも大きいものは陽生タイプ,両値とも小さいものは陰生タイプである。PFD_nとNPQ_nによるタイプ分けは,前述のrETR曲線によるタイプ分けとよく一致しており,両方を組み合わせることにより,精英樹クローンの耐陰性評価の精度が一層高まると推察された。以上,次年度の計画実施に向け,足場をかためることができた。
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