平成18年度は、Slippage論に焦点を当てた文献研究の結果をフィールドで確認しまとめる作業と、Slippage論をラオスで援用する為の解釈についてのとりまとめもおこなった。その上で最終的な成果となる論文作成の準備をおこなった。 調査対象地(ラオス南部・サワンナケート県)での森林管理に関する現地調査をおこなった。地方行政による「目こぼし」的な対応については、これまでの研究成果同様に保護地域での森林管理については確認された。しかしながら、植林事業や木材伐採事業など営利的な事業における森林管理においては、むしろ地域住民に対して不利益を被る事態が散見されることが分かった。これよりSlippageは、地方行政個人に対して何らかの利益が発生する可能性のある事象について、その実施はきわめて乏しいと考えることが出来ると考えられるが、この事象の実態や構造については今後の研究課題としたい。 ラオスにおけるSlippage論の大きな特徴は、Slippageの事象が法制度を遵守しないでおこるNegative Slippageのみであり、他の法レジームなどに置き換えるPositive Slippageは起こりえないことがわかった。これにはラオスがアメリカのように十分に行政機構のシステムが発達していないことが一因であるとした。また社会関係資本論、Slippage論と関連する日常の抵抗論、途上国の現地行政論、社会主義国の二重の従属論などの研究の一連のレビュー活動も完了した。 現地調査の結果を受けて、文献研究の成果と照らし合わせ、その成果を博士論文の一部として取りまとめるとともに、投稿論文の準備をおこなっている。
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