研究概要 |
発眼期シロサケの卵黄と胚体の間を糸で縛り卵黄部分だけを切り出した「卵黄巾着」培養系を用い,卵黄嚢上皮の水透過性に及ぼす環境水中の2価イオンの影響を調べた.発眼卵の卵膜をピンセットで丁寧に剥きとり,次に胚体と卵黄の間に輪にした糸をかけてゆっくりと縛る.糸の結び目により分断された胚体と卵黄から胚体部分を取り除く.その結果,卵黄全体が卵黄嚢上皮によって完全に覆われた状態の試料(卵黄巾着)が作製できるが,糸で縛るときに卵黄がやや圧迫される.作製された卵黄巾着を直ちに体液と等張の平衡塩類溶液(BSS)中で予備培養し,その重量を経時的に測定したところ徐々に減少したが,培養2〜3時間で安定した.そこで以下の実験では,BSS中で3時間予備培養した卵黄巾着を用いた.天然の淡水には微量ながらNa,Cl,Ca,Mgなどのイオンが溶存し,特に水の硬度を規定するCaとMgの濃度は地域によって大きく変動する.そこでまず,Ca濃度を0〜2.5mMに変化させた人工淡水(1mM NaCl)中で卵黄巾着を培養した結果,Ca欠如淡水では浸透圧差によって内部に水が流入し重量が有意に増加したが,0.1mM以上のCaの存在下では変化が見られなかった.またMgについても調べたところ,同様に水透過性の低下が認められたが,その効果はCaよりも弱かった.以上の結果より,環境水中に存在する僅かなCaやMgによって,卵黄嚢上皮の水透過性が低く抑えられていることが明らかとなった.
|