本研究は、(1)農地転用の性格の変化から農地所有権の空洞化が進んでいることを実証することと、(2)農地等地域資源を核とした新たな地域社会がどのようなかたちで生まれる可能性があるかということを現地事例から拾い上げることの2点を課題としている。今年度の結果は以下の通りである。 (1)については、茨城県農業会議に毎月提出される農地転用許可申請書をデータとして分析を行った結果、宅地や工業用地など実需に基づく転用は減少し、かわって資材置場や駐車場など実需を伴わない転用が増加しているという事実を確認するとともに、県西地域ではそれに加えて主として建設残土の盛土による農地の一時転用が増加しているという事実を明らかにした。農業収益の低迷と担い手不足の下で進む農地転用の性格変化を明らかにすることで農地所有権の空洞化が進んでいるという実態を統計的に確認することができた。その結果は『農政調査時報』第523号に投稿、公表している。本研究の課題のうち1つはこれで終了した。 (2)については、今年度から始まった水田農業ビジョンづくりに焦点を当て、その策定過程において地域社会がどのように変化しようとしているのかについて現地を調査した。主な調査地区は鳥取県北条町、島根県横田町、佐賀県諸富町、宮崎県小林市である。北条町では土地改良区が核となって土地利用調整が図られていることが、横田町では集落営農の連携関係の構築という動きが生まれようとしていることが、諸富町では転作大豆について町一本の土地利用調整が実現していることが、小林市では集落を越えた広域的な集落営農の立ち上げに向けて合意形成が図られていることがそれぞれ明らかになった。政策的な枠組みが与えられたためとはいえ、そうした上からの要求を地域が主体的に受け止めることで水田農業の構造再編とともに、微弱ではあるが地域社会は確実に変容しつつあるということが確認された。
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