研究概要 |
イネは食用作物の中では光環境変化に敏感な植物である。イネは近年,食用作物のモデル植物としてゲノム解析がなされ,情報伝達や生理機能に関する分子生理レベルの研究が盛んになっている。本研究では,イネ等の植物のDNAマイクロアレイを用いて光質(紫外光,青色光,赤色光,遠赤色光の割合)および日長(明期)変化に応答して発現量が変動する遺伝子群を探索し,これら遺伝子群の持つ生理機能を解析し,光環境要因が複合的にイネの生理・成長に及ぼす影響を網羅的に調べることを最終目的とする。 本年度は,光質および日長に対するイネの反応を栽培レベルで調べる2つの実験を行った。 (1)光質と明期が生殖成長に及ぼす影響を調べる栽培実験 赤色光と青色光の割合の異なる4つの光質条件をカラー蛍光ランプを組み合わせて作成した。この光源を人工光チャンバーにセットし,環境調節を行い,光質処理と明期処理を組み合わせて栽培実験を行った。イネを水耕法で栽培し,栄養成長期に光質と明期を変化させ,両要因が花成に及ぼす複合的な影響を個体レベルと器官レベルで観察した。幼穂分化時期,幼穂成長,出穂時期および穂の成長について観察した。 (2)光質と明期が栄養成長に及ぼす影響を調べる栽培実験 同様の条件で,光質および明期を変化させ,栄養成長期の蒸散速度,葉身伸長速度,乾物増加速度などを調べた。また,顕微鏡により葉身の解剖学的な観察を行った。 以上の実験により,青色光が多い光質条件において,幼穂分化時期が早まる,幼穂分化から出穂までの幼穂形成期間が短縮されるという2つの花成促進効果を確認した。また,気孔開度の増加に伴う蒸散速度の増加,葉身の伸長促進,および強光順化的な葉構造の変化を見い出した。
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