マウス胚は受精後の1細胞期中期より遺伝子発現を開始するが、この時リアルタイムに発現している遺伝子のプロファイルの作成を試みた。すなわち、実際の転写パターンを知るためには、胚中に大量に蓄積された母性mRNAから、新しく合成されたmRNA(新生mRNA)を単離することが必要である。そこで、胚にブロモ標識したUTP(BrUTP)を注入し、抗BrU抗体で沈降させることによってBrUを取り込んだ新生mRNAを単離するという手法を考案した。 前年度までの研究において、BrUTPの胚への導入、BrU標識mRNAの免疫沈降などの実験条件に関する検討を行い、実験系がうまく機能していることが確認された。そこで本年度は、マイクロアレイ用に準備した多数の胚から抽出したRNAについて免疫沈降を行い、これによって単離されたmRNAについてマイクロアレイで解析した。 その結果、BrUTPを導入していない胚からの免疫沈降物(コントロール)と比較して、BrUTP標識胚からの免疫沈降物(実験群)は、マイクロアレイのシグナル強度で3倍以上高い値を示す遺伝子が54個存在した。逆に、コントロールが実験群よりも3倍以上高い値を示す遺伝子は1個も存在しなかった。このことは、抗BrU抗体による免疫沈降がBrUを取り込んだ新生mRNAを特異的に単離し、さらにそれをマイクロアレイで正確に検出できたことを示すものである。このようにして得られた遺伝子を解析した結果、これまでに1細胞期胚で発現しているという報告のなかったものが50以上含まれていることが明らかとなった。
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