研究概要 |
Trypanosoma congolenseエピマスティゴート虫体(EMF)はツェツェバエの口器内腔、培養条件下ではフラスコ底面に強く接着しコロニー状の集塊を形成する。EMFはコロニーを形成した後、哺乳動物宿主に感染能を有するMCF虫体へと分化し、ツェツェバエの吸血によってMCFが新しい宿主へと伝播される。EMFの接着はMCFへの分化、すなわちメタサイクロジェネシスに必須であることが知られている。本年度はEMF虫体培養上清(以下E-TVM1)中に虫体由来接着分子(tam : Trypanosome derived cell Adhesion Molecule)が存在していることを明らかにし、tamの性状解析および遺伝子クローニングを行った。 まず初めにE-TVM1中の虫体由来蛋白質を検出する目的で[^<35>S]標識メチオニン・システイン混合液によるEMF虫体の代謝標識と標識E-TVM1のSDS-PAGE解析を行った。その結果、E-TVM1中には89kDaおよび100kDaの二種類の虫体由来蛋白質が存在していることが明らかとなった。同様にして標識したプロサイクリック虫体(PCF)培養上清中からは89kDa蛋白質のみ検出されたことから100kDa蛋白質がEMF由来のtamであることが示唆された。さらに、60%硫安塩析tam分画をマウスに免疫して作製した抗tam血清を用いて標識E-TVM1からの免疫沈降を行った。その結果、標識E-TVM1中から100kDa蛋白質が沈降した。以上の結果からtamは分子量100kDaの蛋白質であることが明らかとなった。 TAM遺伝子をクローニングする目的で、EMF虫体cDNAライブラリーを上述の抗tam血清でイムノスクリーニングした。その結果2,067bpのORFを持つcDNAがクローニングできた。遺伝子配列から予想されるアミノ酸配列の解析によって、tamは689アミノ酸残基からなり、分子量72.9kDa、pI値が5.22であることが示唆された。また二次構造はα-ヘリックス構造に富み、非常に親水性が高いことが予測された。さらに6ヶ所の予想アスパラギン結合型糖鎖付加部位が存在し、N末端およびC末端には疎水性アミノ酸領域が存在していることが明らかとなった。N末端の疎水領域は分泌あるいは小胞体移行シグナル配列、C末端の疎水性領域はGPIアンカー付加あるいは膜貫通領域であると思われる。tam予想アミノ酸配列のホモロジー解析の結果既知の虫体蛋白質で高い相同性(>50%)を示すものは存在しなかった。 17年度はツェツェバエ口器内腔細胞に存在するtamリガンドの同定、メタサイクロジェネシスにおける役割などを明らかにする予定である。
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