研究概要 |
H5N1およびH5N3亜型の鳥インフルエンザウイルスをマウスに経鼻接種するとウイルスは気道粘膜で増殖後、主として迷走および交感神経の上行性神経線維を経由して延髄の迷走神経核(弧束核および疑核)と胸髄の交感神経核へ侵入すると考えられている。そこで、迷走神経を片側性に切断したマウスにインフルエンザウイルスを経鼻接種し、末梢および中枢神経系におけるウイルス抗原とゲノムの出現時期を経時的に検索したところ、迷走神経を切断した側では非切断側に比べ2日間遅れて迷走神経節にウイルスが到達したことから、経鼻接種されたウイルスは呼吸器粘膜から迷走神経を経由して脳幹へ到達することが分かった(Vet Pathol 41:101-107,2004)。 つぎに、分画ディッシュで培養したマウス脊髄背根神経節神経細胞の軸索末端にインフルエンザウイルスを感染させ、軸索輸送によって神経細胞体核周囲に到達するか否か、さらに、nocodazole(tubulin重合阻害剤)、cytochalasin D(actin阻害剤)、あるいはacrylamide(中間径フィラメント阻害剤)処理した培養神経細胞においても軸索輸送されるか否かをin vitroで検討した。陽性対象として、軸索輸送されることが分かっているヘルペスウイルス科のオーエスキーウイルスを用いた。その結果、インフルエンザウイルスもオーエスキーウイルス同様に、軸索輸送によって経神経伝播することが分かった。さらに、経神経伝播することが分かっている狂犬病ウイルス、オーエスキーウイルスなどはtubulinの重合体である微小管を介して軸索輸送されるが、インフルエンザウイルスの軸索輸送は微小管を破壊しても影響を受けなかった(J Gen Virol 86:1131-1139,2005).以上より、インフルエンザウイルスが経神経伝播することをin vitroとin vivoにおいて証明するとともに、インフルエンザウイルスは未知の様式によって軸索内輸送されていることを明らかにした。
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