先天性水疱性皮膚疾患はヒトおよび動物の遺伝的異常に基づくもので、その中でも境界型の表皮水疱症(JEB)はヒトと犬で比較的多く報告がみられる疾患である。その遺伝的異常により皮膚の基底膜蛋白であるラミニン5のα3鎖、β3鎖、γ2鎖、あるいはヘミデスモゾーム蛋白であるα6β4インテグリン、類天疱瘡抗原(BPAG2)など様々な蛋白に生成異常が生じ、表皮-基底膜-真皮の接着が障害されて水疱がみられる。ヒトでは致死型、非致死型が存在し、いずれも生活上重要な影響を及ぼす。ヒトでは本疾患の遺伝子治療を目指して検討中であるが、適当なモデルが存在しないためにその研究は進んでいない。そこで犬のJEBとヒトのJEBを比較し、犬のJEB症例が一遺伝子治療のモデルに使えるかどうかを検討した。本年度は東京農工大学の家畜病院において診断された2例に加え、さらに2例の犬のJEBの症例を発見したため、臨床的、遺伝的背景、病理組織学、電子顕微鏡学的ならびに蛍光抗体法による検討を行った。その結果、新たに診断された2頭も雑種犬であり、遺伝的背景は明らかではなかったが、電子顕微鏡的にラミナルシダで表皮-真皮間の解離が認められ、境界部型の表皮水疱症であると診断した。また、現在のところ、先にあげたすべての蛋白に対する抗体を用いて蛍光抗体法を行ったが、いずれの接着蛋白の発現にも明らかな異常は認められていない。なお、4頭のうち1頭について昨年8月にオーストリア国ウイーンで開催された、世界獣医皮膚科学会で発表した。
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