神経発生は分裂能力を有する神経幹細胞が非分裂細胞である神経細胞に分化する基本的生命現象である。最近遺伝子非相同組み換えに関わる分子が神経発生時になんらかの役割を果たしていることが示された。このことは神経発生時においても遺伝子が積極的に不安定(DNA2重鎖の切断[DNA double strand break/DSB]および修復/再会合)となる可能性を示唆している。これらの遺伝子のうちいくつかは神経疾患の原因遺伝子であることから遺伝子不安定性の制御破綻が神経疾患の発症に関連していることをも示している。またある種の内分泌撹乱物質が遺伝子の不安定化に影響する可能性も示唆されている。 昨年度の研究より、マウス胎仔脳におけるDSB修復にはDNAリガーゼ活性だけでなくDNAポリメラーゼ活性も関わっていること、大脳皮質由来の培養神経細胞の生存率はDNA再結合活性と相関していること、が示された。用いたDNA再結合活性の測定法は半定量的であったので、本年度では、定量的かつ高感度な方法の開発を試みた。96ウエルプレートに2本鎖DNAオリゴヌクレオチドを固相化し、続いてビオチン標識2本差DNAおよびT4DNAリガーゼを添加した。16℃で18時間反応させた後、結合したビオチン標識DNA量をアビジン-ビオチン-パーオキシダーゼ複合体(ABC)および発色試薬TMBを用いて測定した。バックグランドのさらなる低減化が課題であるが、6Weiss unitの検出が可能であった。今後、細胞や組織抽出液を用いてDNA再結合活性を比較検討する。 また代表的な内分泌撹乱物質(ビスフェノール、ノニルフェノール)の神経発生に及ぼす効果を調べた。これらの物質をあらかじめPheochromocytoma12細胞に暴露すると、細胞死を誘導することなく神経成長因子による神経分化を阻害することが分かった。今後、これらの物質の暴露によりDSB生成やDSB修復が影響を受けているかどうかについて検討する。
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