当教室ではこれまでに、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)のうち、いくつかの分子種が齧歯類の雄性生殖器に高発現していることを見いだし、精子における発現様式を免疫染色解析した。その結果、IID-sPLA2は体部、IIF-PLA2は尾部、V-sPLA2とX-sPLA2は頭部に主に発現していることを明らかにした。それぞれのsPLA2分子種が精子内の異なる部位に局在することは、それぞれの酵素が異なった局面で機能することを意味していると考えられる。本年度の研究により、IIF-sPLA2は精巣のLeydig細胞に高発現しており、培養Leydig細胞を用いた解析で、絨毛性性腺刺激ホルモンで刺激するとIIF-sPLA2の有意な発現上昇が観察された。さらにIIF-sPLA2は糖鎖修飾や多量体形成などの翻訳後修飾を受けることを明らかにした。 プロスタグランジン(PG)E2生合成経路の最終段階を触媒する酵素である細胞質型PGE合成酵素(cPGES)を同定し、シクロオキシゲナーゼ(COX)-1と機能連関して即時的PGE2産生に関与することを明らかにしてきた。一方、cPGESはコシャペロンタンパク質であるp23と同一分子である側面も有しており、本年度の研究では、cPGESの生体内機能を解明するためにcPGES-/-マウスの樹立を行った。その結果、cPGES+/-マウスは正常に発育し生殖能力にも異常は見られなかった。しかし、cPGES+/-同士を交配した結果、cPGES+/+とcPGES+/-はほぼ1:2の比率でメンデル律に従って生まれたが、cPGES-/-はcPGES+/+に対して0.15と顕著に少なく、得られたcPGES-/-新生児も生後まもなく死亡した。従って、cPGES-/-マウスは胎生致死あるいは生直後に死に至ることが明らかになった。この表現型はこれまで知られている他のアラキドン酸代謝酵素やPGE2受容体のノックアウトマウスより重篤であることから、cPGESがマウスの正常な発生や生存に必須であり、PGE2産生系のみならず分子シャペロン系にも寄与する可能性を示唆している。
|