Aschoff(1924)が提唱した本来の細網内皮系(網内系)には、特定の臓器の血管内皮細胞、リンパ性組織の細網細胞、そしてマクロファージが含まれる。しかしながら、内皮細胞と細網細胞にはマクロファージに匹敵する貪食能が備わっていないことから、現在では網内系=マクロファージという考えが一般的である。Aschoffらが観察した内皮細胞と細網細胞による異物の取り込み像は幻であったのだろうか。我々は、先の研究で、細胞骨格の再構築に関係するSSeCKS(src-suppressed C kinase substrate)が網内系のマーカー物質になる可能性を示唆した。本研究では、網内系の復活をめざして、肝臓とリンパ節におけるSSeCKSの詳細な局在と異物取り込み能を検証した。リポポリサッカライド(LPS)投与により、SSeCKSが肝臓では類洞内皮、リンパ節では髄質の細網細胞に特異的に発現した。両細胞において、SSeCKSは細胞膜に沿って局在していた。これらSSeCKS発現細胞は正常では炭素粒子と20nmラテックスビーズを少量取り込んだだけであるが、LPS刺激下では取り込み能が著しく上昇した。このときの内皮細胞では、SSeCKSは細胞膜から離れ飲み込み小胞や空胞と密接な位置関係にあった。SSeCKSを強制発現させた内皮細胞において、SSeCKSは異物を取り込んだライソゾームに不随した局在を示したことからも、SSeCKSが外来異物の取り込みに関係していることが示唆された。一方、SSeCKSを発現しない肝臓の他の部位の血管内皮やリンパ節皮質の細網細胞は異物を取り込まなかった。肝類洞内皮とリンパ節細網細胞に代表される網内系は共通してSSeCKSを発現し、異物取り込み能を発揮するが、マクロファージとは異なる取り込み機構を有していると思われる。
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